入門トラックボール愛 - トラックボール愛のはぐくみ方
このエントリは「カーネル/VM Advent Calendar」向けに書いたものです。
トラックボール愛のはぐくみ方
このエントリでは、なぜ人とトラックボールがすれ違ってしまうのかを通して、トラックボール愛をはぐくむ方法を紹介します。
なぜ人々はトラックボールに挫折し、マウスへ向かうのか
"トラックボール"が苦手?
トラックボールの挫折経験があるという人はよくこう言います。
「トラックボール使ってみたんだけど、合わないみたい(´・ω・`)」
また、こういう人まで居ます。
「不良品っぽかった(´・ω・`)」
そしてその後、トラックボール界へ戻ってくることはまずないでしょう。
これに対して気が利くトラックボール好きの人ならまずこう言うでしょう。
「まず、品番を聞かせてもらおうか 。゚+.(*`・∀・´*)゚+.゚」
一体どういうことなのでしょう。
"トラックボール"の種類は少ない
マウスについて考えてみます。 マウスは世の中に普及しているだけあり、多種多様な製品が存在します。 「大きさ」「色」「ボタンの数」「ホイールの性質」「ボタンの質感」「有線/無線」 などなど、それぞれが少しずつ異なり、好みに応じて人々はどのマウスを使うかを選択します。
一方トラックボールはどうでしょう。 トラックボール売り場は狭いです。お店によっては取り扱ってすらいないでしょう。 それはトラックボールの種類の少なさを表しています。悲しい現実です。 しかし、 決して種類の少なさが"多種多様でないこと" を表しているわけではないのです。
トラックボールの多様性
ところで、マウスとトラックボールの違いはどこにあるのでしょう。 「ボールを転がして操作するのがトラックボール」。 間違ってはいません。しかし、皆さんが想像する以上に 転がし方が多種多様なのです 。
先ほど、「マウスは多種多様である」とも言いました。 しかし、広い売り場にあるどのマウスを持ってきても、 マウスを使ったことがある人なら使い方が分かると思います。
一方トラックボールはどうでしょう。 同じような状況で、トラックボールの場合は どう持てばいいか分からない という事態が発生します。マウスでは考えられません。 これがトラックボールの多様性を表しています。
"トラックボール"の指し示すもの - 相手を知る
"トラックボール"とひと言で言っても、まったく別の操作方法を想定した製品が「ボールを転がす」というくくりだけで一緒くたにされているだけなのです。
トラックボールをおおまかに、分類すると次のようになります。それぞれの分類に表示されている画像は、その分類中の代表的な機種です。
- 親指型
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もっともマウスに近く、マウスの「本体を動かす」動作がそのまま「ボールを転がす」操作になっています。 3ボタンがマウスの一般的な配置と同様であることから、マウスからの乗り換えが容易です。 親指でボールを操作します。
- 人差し指型(左右対称)
- 人差し指型(左右非対称)
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右利き用です。ボールがやや外側にあり、中指、薬指が中心になりボールを操作します。ボタンは親指側と小指側にそれぞれ配置され、ボタン数が多く、ホイールを設置する機種も多いのが特徴です。
- 手のひら型
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"手のひら型"と呼ばれますが、親指以外の指も含めた手全体でボールを操作します。ボタンの配置が特殊で、どうやってボタンを押せばいいのかが若干わかりにくくなっています。 ボールは非常に大きく、他の形に比べてやや力が必要になります。 また、他の種類に比べやや高価です。 ただし、それこそがトラックボールの繰球感を得やすい特徴を生んでいます。 "人差し指型に含むこともあります"
- ハンディ型
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本体を手でつかんで操作します。他と異なり、一般にマウスの代わりとして利用するわけではなく、トラックボールというくくりでも特に特殊であり、このエントリでは特に取り扱いません。
このように、それぞれ似て非なるものなのです。
そして、それぞれの分類の中でも、機種ごとに操作方法が異なります。トラックボールというくくりで簡単に扱うことが難しいほどです。
つまり、
「トラックボール使ってみたんだけど、合わないみたい(´・ω・`)」
という発言は、数あるトラックボールの1パターンが合わなかったに過ぎないのです。ですから、トラックボールを使う人からすると、どのパターンが合わなかったのかが気に名手しまうのです。
入門用トラックボール
では、初めてトラックボールを使う場合、これだけたくさんある中からどの機種を選択すればよいのでしょうか。
ここで重視すべきは「移行しやすさ」です。トラックボール好きに質問すると、「トラックボールらしさ」で選択されることも多いですが、初めての人には刺激が強すぎます。 そこで私は、入門には、最もマウスに近い「親指型」をおすすめしています。
入門用おすすめトラックボール「親指型:TM-250」
さて、ではどの親指型が良いか、と考えたいところですが、親指型に絞ると、入手のしやすさの関係もあり「Logicool TrackMan Wheel TM-250
」一択です。

では、これを利用すればトラックボール愛に満ちて幸せになれるのでしょうか。 実は、かなり厳しいものがあります。愛をはぐくむ期間が必要です。
TM-250を初めて使ってみると - 初対面の印象が大切
TM-250の封を開け、パソコンに接続して、使い方が分からないことはまずない思います。 しかし、ボールの扱いにくさに不満が出ることが予想されます。
これは、開封直後のボールが滑りにくいという性質が原因と考えられます。
トラックボールを初めて使用すると、次のような症状に見舞われるでしょう。
- 細かい移動が出来ない
一文字となりを選択したいのに、三文字となりまで移動してしまう。- 遠くまで移動できない
何度もボールを転がさないと遠くまで到達できないため、ボール操作を負担に感じる。- 思った方向に移動できない
荒っぽい移動しか出来ず、思った位置に一度の繰球で移動できない。- マウスジェスチャが出来ない
2スクロールのマウスジェスチャで、マウスカーソルの移動が大きくなってしまい、小回りが利かず、素早く方向転換が出来ない。また、それにより意図したマウスジェスチャが動作してくれない。
これらは、ボールの滑りを良くしてあげることで解決できます
初めて利用する前に(初級編A) - 愛をはぐくむ
以上のような問題を未然に極力防ぐため、初めて利用する前に少しでもボールを滑りやすくする必要があります。この方法には「研磨する」「潤滑剤を利用する」の二通りがありますが、両方実施することをおすすめします。
研磨する
研磨剤(コンパウンド)を利用して研磨します。
私はタミヤのコンパウンド
を利用しています。
水でほこりを流した後、これを直接ボールに着けて、布やスポンジで磨きます。ひたすら磨き続けることで、細かい傷が解消され、滑りが良くなると同時に愛がはぐくまれる効果が見込まれます 。水で洗い流し、水分を拭き取って研磨終了です。しかし、このままだと油分が無く、全く滑りません。潤滑剤を利用してください。
潤滑剤を利用する
潤滑剤を付けて、ボールを滑りやすくします。何もしなくてもある程度は指から分泌される油分で滑りやすくなりますが、最初の印象が大切です、はじめから滑りやすくしておきましょう。
ボールの研磨とは対照的に、潤滑剤にはいろいろな選択肢があります。
私は釣り具用の潤滑剤として利用されるボナンザスプレーPRO100
を利用しています。スプレーを吹き付け、ボール全体に均等に行き渡らせた後、表面が乾かないうちに軽くから拭きをします。この作業でフッ素樹脂コーティングされ、滑りが滑らかなります。
また、潤滑油には様々な選択肢があります。利用しやすいものを利用してください。
- ソンバーユ
(馬脂)
「とあるトラックボール潤滑油をテスト中(漫画萌研究会埼玉支部)」- シリコンスプレー
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「ボールの研磨+シリコンオイル(GarakutaPositronicBrain)」
ただ、ここは是非ボナンザスプレーを利用して欲しいと思います。なぜかというと、繰り返し使うことでフッ素コーティングの真価が発揮されるらしく、より愛情を育みやすいからです。
初めて利用する前に(初級編B) - もっと愛をはぐくむ
研磨・コーティングと比較すると少し敷居が高くなりますが、より使用感をあげるための簡単な方法を紹介します。もっと愛をはぐくんでおきたい人向けです。
ボール支持部の安定化
TM-250には、ボール支持部がぐらつく問題があります。
これは、ボールを支持するカップと、本体の下になっている部分の組み合わさる部分との間の大きな隙間が原因です。
これを直すとよりなめらかにボールをコントロールできるようになります。修正方法は簡単で、隙間に紙を挟み込むだけです分解を伴うので、保証が聞かなくなります
上の画像のように、折りたたんだ紙を挟み込んでから、カップを押し込むことで、しっかりと固定できます。これで、カップの安定化が完了しました。
本体の安定化
本体を裏返してみます。次の図の青色は、ゴム脚の位置を表しています。そして、黄色は左ボタンと右ボタンの真下の位置を表しています。
見ての通り、ボタンの裏にゴム脚がありません。つまりどういうことかというと、クリックすると傾きます。
そこで、私は対策として、紙を重ねてマスキングテープで貼り付けました。
そして、これだけだと滑ってしまうので、絶縁テープ(ビニールテープ)を貼って作業完了です。
これでクリックしたときの不安定感を解消できます。
想定される苦難と対処法
これだけ準備をしても、苦悩は付きまとうものです。先ほど挙げた問題点も再掲し、対処法を記しておきます。
- 細かい移動が出来ない
症状:一文字となりを選択したいのに、三文字となりまで移動してしまう。
対処法:少しずつ位置を合わせるのではなく、一度の移動で正確な位置に停止できるように意識してください。真に細かい修正はトラックボールの弱点です。それでも下準備を十分したのでやりやすいはず。 - 遠くまで移動できない
症状:何度もボールを転がさないと遠くまで到達できないため、ボール操作を負担に感じる。
対処法:マウスカーソルの移動速度の設定を速します。2モニタ以上の場合は最速にします。
副作用:細かい移動が難しくなります。しかし、愛によってカバーできることが実証済み。 - 思った方向に移動できない
症状:荒っぽい移動しか出来ず、思った位置に一度の繰球で移動できない。
対処法:愛情を持ってトラックボールと接することで、だんだんと改善されます。 - マウスジェスチャが出来ない
症状:2スクロールのマウスジェスチャで、マウスカーソルの移動が大きくなってしまい、小回りが利かず、素早く方向転換が出来ない。また、それにより意図したマウスジェスチャが動作してくれない。
対処法:2日ほど様子を見ましょう。しだいにマウスよりマウスジェスチャを華麗に繰り出すことが可能になります。 - クリックするときにずれる
症状:せっかっくうまくマウスカーソルカーソルを移動したのに、クリックする直前に位置がずれる。
対処法:ボールに指を密着させすぎていませんか?いくら愛を持って接しようとしているからと言って、接触面積が大きいと、どうしても指を離したりクリック動作に入るときにマウスカーソルが移動してしまいます。ボールは軽く操作しましょう。 - 実は左利き
症状:右利き用のトラックボールだとうまく操作できない。
対処法:残念ながら、左利き用のトラックボールは存在しません。対称型のトラックボールをおすすめします。しかし、愛を深める内に、右利き用であるTM-250を左手で操作できるようになります(本当)。
以上の対処法から分かるように、愛情を持ってトラックボールと接することが大切です。
限界 - 愛では解決できない問題
トラックボールには、マウスには勝てそうにない、非常に大きな欠点が1つあると考えています。それは「マウスカーソルの軌道を正確に制御すること」です。たとえば、ドローソフトで絵を描くのは非常に難しく、マウスを利用した方が賢明です。愛が足りないと嘆くことはありません。
まとめ
今更ですが、 トラックボールに乗り換えて、すぐ嬉しいことが起こるわけではありません。これは、慣れるまでの間、間違いなくマウスのような操作ができないからです。そして、慣れるまでの期間の長さは人それぞれで、忍耐が必要です。しかし、それを乗り越えたからと言って、マウスより快適なトラックボールライフが存在するかは定かではありません。これが事実だと思います。
マウスは、愛が無くても割と使いこなせます。練習すれば、非常にうまくなるでしょう。しかし、トラックボールは、使うだけでもそれなりに愛が必要です。非常にうまくなるためには、非常に強い愛が必要です。
そうはいっても、トラックボール愛さえあれば、立ちはだかる幾多の苦難を乗り越えた後、すばらしいトラックボールライフに到達できるはずです。なぜなら、愛がある限り、いずれ数ある欠点を認め、弱点を愛し、自由自在に使いこなせるようになれるからです。こんな体験マウスじゃ出来ません。
とかなんとか言っていますが、とりあえず使ってみて、使いづらいことを楽しんでみてください。不思議と愛が湧いてくるかもしれません。